2014年10月27日月曜日

ギブミー・ア・ファック

ダラスはメキシコ系のアメリカ人で20歳、
ぼくの弟と同じ年です。
彼はアリゾナの大学で音楽プロデューサーになるために
作曲や編集を勉強しています。

背が高くてR&Bシンガーのアッシャーみたいなダラスがオーシャンに来て
三週間経ちます。
彼はウーファーの中では珍しく毎日身だしなみを整えています。
髪の毛は毎日ワックスをつけて櫛でといてぴっちりと横分けにセットしているし、
外に出る時はティアーズドロップのサングラスをかけている。
そんなのが幡豆みたいな田舎を自転車で走っていると、ことのほか目立ちます。

だけどそんな派手さとは裏腹に家にいる時は、
今までのウーファー中でも一番存在感を感じさせない同居人です。
家では息を殺してる、というか部屋から出ません。
ずっと部屋で動画を見ているか、音楽を作っているかしている。
持ってきたキーボードでパソコンにトラックの打込みをしています。

メキシコ系アメリカ人で音楽が大好きなんていったら
当然マリファナもセットで好きな若者だと思ったら違いました。
実は真面目でクリーンな若者で
「夢はアメリカで初のマリファナを吸わないメキシコ系音楽プロデューサーになりたい」
と言っていました。

彼の会話の特徴はすぐに「アメリカでは〜」「アリゾナでは〜」と、
アメリカ話しをはじめることです。
ピザの話しをしていると必ず「シカゴピザは〜」という話しでくい込んできます。
お互いのことを知らない最初のうちはいいんですけどね、
会話の糸口を掴むのには良いきっかけですから。
だけどだんだん「お前のアメリカ話しは分かったから!」と
つっこみたくなってきます。

それから彼はアメリカ人の多くがそうであるように個人主義的に、
畑仕事中にもずっと、デジカメの動画で虫を撮っていたりします。
みんなで草むしりをしているときにパッとダラスを見ると、
彼はしゃがみながらデジカメを地面に向けて、
ゆっくり動いています。
しばらく放っておくと彼はぼくのところにやってきて、
そのデジカメの動画を見せてきます。
そこには毛虫とかカタツムリとかクモがアップに映されていて
「すごくないか?こいつらアップで見るとほんと変な生き物だよ!」
と興奮しています。

それをぼく一人に見せて仕事に戻るならともかく、
畑仕事をやっている人全員に順番に見せて行きますから困ります。
「毛虫は分かった!
カタツムリも分かった!
手を動かせ!」
と言いたくなりますけど、放っておきます。
放っておいて行動で教えることにします。
おれの動きを見ろといわんばかりに、
忙しそうにせかせかと草むしりをして見せるとさすがにダラスもちょっと
仕事をやらなきゃと思うみたいで動き出します。
だけどパッと気付くと、
すぐにまた虫を動画で撮っています。

ダラスはうちに来てから毎日ぼくが教えた『進撃の巨人』を動画で見ています。
ぼくはダラスが教えてくれた『氷と炎の歌』を読んでいます。
米ドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作で、
うちに来たウーファーのほとんど全員が面白いと言っていました。
「何で日本では有名じゃないの?」と聞かれますけど、よく知りません。
ということもあってぼくは気になり
「そんなにみんなが面白いというなら読んでみよう」と思って読みはじめました。
ファンタジー小説でまだ冒頭ですけど、
名前がたくさん出てくるので最初の一巻は覚えるのに時間がかかりそうです。

ダラスは十一月末までの滞在予定なので約二ヶ月です。
ウーファーの中では長期ステイの部類です。
下の写真はダラスが薪割りをしているときに
「見てくれこの薪を」と中指を立てた薪を嬉しそうに持ってきた時のことです。
ぼくは「Give me a fack」と言って写してあげました。


2014年10月24日金曜日

個人商店の営業の極意

ぼくが育った西尾市内の実家は元々城下町で、
その歴史があるのか今でも個人商店が並んでいます。
たとえば珍しいお店では鰹節屋、お麩屋、ヘビ屋とかがあります。

鰹節屋さんには鰹節がショーケースに入っているのが外から見えます。
お麩屋さんには入ったことありませんけど、
ガラス戸越しに麩がたくさん並んでいるのが見えます。
ヘビ屋は漢方系のお店で、
ヘビにかぎらず猿の頭、白いカエル、鹿の角などが並んでいます。

バナナ屋というのもあります。
そのお店の95%は普通の住居ですけど、
玄関はガラス戸になっていて、
入ってすぐのところにバナナがザルに入って置いてあります。
ガラス戸には白いプリントで〈橋本バナナ〉と屋号が貼られています。
ぼくが小学生の頃から今に至るまで記憶にある限り、
そのバナナ屋からバナナが消えたことはありません。
同じ場所に同じザルの数だけ十数年も
バナナを品切れさせたことがないところにプロ意識を感じます。

実家のはす向かいに豆腐屋があったんですけど、
15年か20年前か忘れましたけど、
そこは店を畳んでしまいました。
店先のドラム缶のような巨大なバケツにいつもおからが満杯になっていて、
豆腐よりもおからのほうが記憶に残っています。
うちの祖母は豆腐と油揚げによくそのおからを買っていました。

この商店群の中でぼくが今でもお世話になっているのは
〈タマキ洋服店〉です。
洋服店という名称ですけどここで服を買っているわけではありません。
売るよりも直し専門です。
裁縫をしてくれるお店で、裾上げやウェストを細くしてくれたり、
破れたジーンズの補修をしてくれたりなどなど。

ぼくがはじめてこの店のお世話になったのは中学校の卒業式前でした。
当時、卒業式の“晴れ舞台”で
学生服に刺繍を入れた“刺繍ラン”の風習が残っていました。
龍とか虎や、風塵雷神や般若といった刺繍です。
こういった絵柄にかぎらずメッセージもありました。
友だちは「真理子 愛死照流」と肩に縦書きで刺繍したのを覚えています。

この〈タマキ洋服店〉は卒業式直前にはこういった“刺繍ラン”の
駆け込み注文で立て込みます。
みんなギリギリまで悩むのです。
お金が無い、親(又は先生)に怒られる、不良じゃないけど目立ちたい、
といった悩みで。
“刺繍ラン”に本気の中学生たちはだいたい年末頃から通いはじめました。
そしてそこの店主であるおじいさんと打合せをはじめます。
白髪の店主はいつも肌着・腹巻き・モモヒキで、
絵に描いたようなおじいさんです。

二月から三月頃店に行くと、
ハンガーに完成した“刺繍ラン”がたくさん並んでいました。
自分の同級生のものは分かりますけど、
他所の中学校のやつもあるので気になって見せてもらいました。
聞いてみると隣の市から制服を持ってきている人もいました。

刺繍は安い物じゃありません。
ぼくが中学生のときに作った物は三万円でした。
上着だけです。
だけどぼくのものは節約型“刺繍ラン”で、
刺繍はほとんど入れずにワッペンを貼ったものでした。
ぼくが知る中で最も高額な物は同級生の“刺繍ラン”で、
それはいわゆる長ランという足のヒザまである丈の長い学生服です。
刺繍を入れる面積が広い分、高くなります。
友達は上着だけで二〇万円かかったと言っていました。

こないだ久しぶりにジャケットの肩を詰めようと
〈タマキ洋服店〉に行ってきました。
肩と袖を詰めて1000円まけてくれて5000円です。
一週間ほどで完成したので取りに行きました。

「おにいちゃん身長いくつ?」
とおじいさんは言いました。
おじいさんはとっくに白内障で目が灰色がかっていて、
たぶんぼくのことも近所で何回も来ているのに分かっていません。
そんな見えない目でよく刺繍ができるな、と思いました。

ともかくおじいさんはぼくに
「これちょっと着てみて」
とハンガーから紺ブレザーを取ってきました。
唐突に、有無を言わせない押し出しの強さです。

(なんだ?直した人が取りに来ないから貰えるのか?)
とぼくは思いながらブレザーを羽織りました。
そこでタマキの店主は言いました。

「おにいちゃん、それ9000円。
サイズぴったりでしょ?
ジャケット直してるとき合うんじゃないかなーと思ってね
生地がいいでしょ?」

ぼくは生地を触りました。
「いいですね、生地が」
そしてぼくは「考えときます」と言って店を出ました。
みなさんも洋服のお直しがあったら行ってみてください。
〈タマキ洋服店〉良いお店です。

2014年10月14日火曜日

ビールの生樽で打っちゃいまして

いつも配達に来てくれる酒屋のシロウくんが来なくなって、
三週間が経っていました。
若いシロウくんに代わり中年男性が配達に来ました。
シロウくんは一体どうしたんだろう?
仕事辞めたのか?
それとも配達ルートが変わったのか?
僕は考えはじめました。

酒屋さんの配達は毎週水曜のお昼前にあります。
その時間ぼくは仕込みに追われていることがほとんどで、
酒屋さんもビールなどを持ってきてくれて空きビンのケースを回収したら
すぐ次の配送に向かうので会話も多くはありません。
だけどぼくは密かにシロウくんの仕事ぶりを眺めるのを楽しみにしていたので、
彼が来ないことを残念に思ってました。

シロウくんは二十代前半で、
一度見たら記憶に残りやすいビジュアルを持っています。
彼ほど鮮明に頭の中で再現できる人はいないじゃないか、
というぐらい思い出しやすいです。
普通他人の顔を頭の中で再現するのは難しいことです。
恋人にしても両親や兄妹にしても、
顔の細部を思い出すのは簡単じゃありません。

それがシロウくんの姿はなぜか簡単に再現できてしまう。
色っぽい女の人をイメージで再現できたら得した気分になりそうですけど、
シロウくんを鮮明に思い出せたところで損はしても得はありません。

まずシロウくんは顔が大きい。
大きくて丸く、坊主である。
そして目が細長くて眉毛が無い。
笑うとすきっ歯です。
はっきり言えば人相が悪いです。

しかし、
その顔の大きさに対する身長の低さ、そして身体の細さ。
暗闇でシルエットだけを見たら宇宙人と間違えそうです。
空きビンのケースを両手で持つ時は細い腕が曲がりそうで、
歩き方が内股になる。
その非力さのせいで、というかそのおかげで、
人相の悪さがひっくり返りむしろ好感が持てるのです。

シロウくんが再び姿を見せたのは三週目が過ぎた配達でした。
彼は何事も無かったように「おはよーございまーす!」と言って、
注文したビール類を置場に運んでいました。
ぼくは仕込みの手を休めて、
しばらく来なかったけど何かあったのか聞いてみました。

シロウくんは急にもじもじしはじめました。
「いやー、ちょっと、入院しちゃいまして」

——え、大丈夫!?病気でもしたの?

「いやケガなんですけど……、
しばらく歩くのも大変で。
ちょっとたまのほうをやっちゃいまして」

ぼくは最初意味をすんなり理解できず、
たまたま仕事でケガをしたのがどんなものなのかと気になり
「たまにするケガって、どんなケガなの?」
と追求しました。

「打撲系なんですけど、
片側が膨れちゃって。
歩くときの振動だけでも痛かったです」
とシロウくんは腰をちょっと引いて前屈みになり、
人相の悪い顔をさらに苦痛でゆがめて見せるので、
やっとぼくは「たま=睾丸」だということに気付きました。

「ビールの生樽で打っちゃいまして」
とシロウくんは打撲の経緯を語ってくれました。
「空になった大樽はメーカーに返す前に取手を外すんです。
樽の取手を持って底を床に叩きつけて外すんですけど、
床に変なふうに叩きつけちゃった拍子に樽が振り子みたいになって、
ほんとなら取手から樽が外れるところを、
外れずに勢いのついた樽を下半身にぶつけてしまったんです。

そのときの傷みはすぐ引きました。
次の日、配達のためにトラックに積み込みをしようと思って、
ケースを持ち上げようとしたときですけど。
ぐっと力を入れるとたまの毛細血管が切れたみたいで、
猛烈に痛くなってきました。
すぐに片方が2・5倍ぐらいの大きさまで膨れました。
それで大将に相談したら病院に行ってこいと言われて、
結局10日間休みをもらいました」

そこの酒屋の大将いわく、
酒屋組合の集まりで飲んでいてその話しを他の問屋にしたところ、
他の酒屋でも若い衆が同じケガをしたことがあるというのです。
酒屋業界ではたまに起きるたまの事故だそうです。

「ビールの生樽で打っちゃいまして」
という大きな丸顔のシロウくんと、
大きく膨らんでしまった下半身。
この、何かシンメトリーな感じがシロウくんに芸術性を帯びせていました。

2014年10月6日月曜日

シナモンと筋トレが好きなハンガリー人

ハンガリー人のマークは二週間ウーファーとして来ていました。
彼は物静かなうえに日本語がまったく喋れません。
その代わりに自分の筋肉を使ってオーシャンの畑仕事に貢献してくれました。
金髪で茶色の目をしたハンサムな彼は
アクションスターのような筋肉です。

マークは二二歳でブダペストの軍隊学校に通っており、
マーシャルアーツのトレーニングを六年間続けています。
彼の身長は185センチほどで
これぐらいの身長は田舎の幡豆町でもたまに見かけますけど、
この筋肉は幡豆町では見かけないタイプの筋肉です。

アスリートの引き締まったバネのある筋肉とは違って、
マークの筋肉はコンクリートのように固い筋肉です。
彼と二週間住んで分かったことは彼にとって、
生活は筋トレ、地球はジム、食事はタンパク質の補給、
だということです。

旅行の際、マークが絶対に持って出かける物は、
プロテインドリンク用のプラスチック製のボトルだそうです。
蓋とコップの間に網目状の中蓋があるんですけど、
たとえばプロテインの粉末に水を入れてシェイクをすると
ダマにならずに簡単に混ざり合うようになっています。

ぼくが家に帰るとマークはよくこのボトルをシェイクしていました。
ぼくは冷蔵庫からビールを取り、マークに一本勧めても彼は断ります。
「いや、これがあるからいいよ」
と穏やかなスマイルで。

彼は粉末状のプロテインは使わずに、
オリジナルのプロテインドリンクを作ります。
レシピは牛乳、卵、シナモン、以上です。
これにパンを浸せばフレンチトースト、というレシピです。
この材料をまとめてボトルに入れてシェイクして飲む。
「ナチュラルで、チープでヘルシーだよ」とマーク。
メープルシロップも入れたら美味しそうです。

休日の朝、ぼくが洗濯物を干そうと外に出ると、
マークはガレージにある玉ねぎ干場の棒に掴まり、懸垂をしていました。
また別の日に僕が台所に入ると、
うちには飲料水用のポリタンク(20ℓ)を置いているんですけど、
彼は椅子の上で背筋を伸ばして座り
それを片手で上げ下げする筋トレをしていました。

——なぜ軍隊に入ったの?とぼく。

「高校を卒業してコンピュータプログラムの専門学校に入ったんだけど、
ずっとデスクに座っていることに耐えられなかったんだ」とマーク。

——そりゃ……そうだよね。ぼくは彼の大きな身体を見ながら納得しました。

「それで親に相談したら
『軍隊に入れば生活には困らない』
と言うので軍隊学校に入ることにしたんだ。
だけど学校に入ってはじめて軍隊の給料が安いことを知ってショックをうけたよ。
月に400〜450ユーロぐらい。
ハンガリーで生活はできるけど、
貯金はできないし旅行なんてもってのほかさ」

——今回の日本旅行のお金はどうしたの?
ぼくは裕福な国とはいえない東欧からやってきた大学生の経済状況が気になった。

「今大学三年目で、日本に来る直前まぜイギリスの軍学校に一年いた。
そこで休みを利用してオックスフォードの鶏舎で三ヶ月仕事をしたんだ。
卵を回収したり、運んだり、梱包したり。
月の給料は二一万円ぐらいあった」

マークはオーシャンの滞在を終えて、
愛知県の田原へ別のステイ先に移動しました。
合計一ヶ月を日本で、
その後は香港で英語を教えるのと引き換えに宿代無料の場所で過ごし、
マレーシアでは農家の手伝い、
バリでは竹で家を造る手伝いをして、
ネパールを経由してブダペストに帰るそうです。

つまり、宿代がほとんどかからない旅行です。
現地の仕事の手伝いをしながら旅行をする人たち、
こんな幡豆の田舎にですらたくさん来るんですから、
これからも増えそうです。

マークが教えてくれたカクテルのレシピが美味しかったので教えます。
・アブソルートのバニラウォッカ
・ライムカット
・シナモンパウダー
・炭酸

この三つの香りの組み合わせオススメです。
他にスクリュードライバーにシナモンを入れたのも飲ませてくれて、
これも美味しかったです。
それにしてもマーク、よっぽどシナモンが好きなんだね。

2014年9月29日月曜日

パンツのお礼

Rちゃんはオーシャンによく来てくれる子で、
二十代後半のかわいい女の子です。
こないだ来てくれたときに僕が、
「すっかり秋風が吹いてきたねー。
十代の頃は強い秋風で女子のパンツがめくれるのが楽しみだったなー」
と感慨深げにつぶやくと、
Rちゃんはスカートがめくれた思い出話をしてくれました。

「私が高校生だった頃……」とRちゃん。

下校中コンビニに寄ろうとした時に、
強い風が吹いて、
勢いよくスカートがめくれあがったから
パンツ丸出しになったことがあって。

急いでスカートを手で押さえて
『げっ、誰かに見られてないかな』って周りを見渡したら
向かいの歩道からじーっとこっちを見てる人と目が合って。
20代前半の大工の格好をした若い男と。

ガーン見られた、くそう……と思いながら
逃げるように近くのコンビニに入ったら、
その男も後ろから付いて来て。

『何この人、気持ちわる……』って
怖くなってすぐにレジにならんだの。

『◯◯◯円になります。』って店員さんが
言ったから財布をだそうとしたら、
サッとその男が隣に来てね、
なんとね、お金を出してきて。

『え?』ってその人をみるとその人は穏やかな笑顔で
『いいよいいよ。ありがとう』って。
って、言ってないんだけど。
言ってないんだけど、
笑顔から感謝の気持ちが強く伝わってきてね。

それならってことで、
『ありがとうございます』
っておごってもらったの。
そして最後はその人
笑顔でお見送りまでしてくれたんだ。

——ふーん、何を買ってもらったの?

うーん……。
あんまり思い出せないけど
確かおにぎりとお茶ぐらいだったから、
私のパンツは数百円ってことか。

上出来だね。

——……うん、良い仕事したね。

2014年9月25日木曜日

一足しか靴を持ってこない旅行者

先週オーストリアから来ていた三人のウーフーが出て行き、
代わりにハンガリー人のマークがやってきました。

色んな人間がうちにやってくるということは
色んな人間がうちの玄関を上がってくるということで、
それは色んな人間の靴を見るということになります。

色んな人間の靴を見ていて分かったことは、
旅行者には二タイプいるんだなということです。
靴を複数持ってくる人間と、
靴を一足しか持ってこない人間です。

みなさんはどうでしょうか。
旅行に行く際に靴は何足持って出かけるんでしょうか。
僕は二足が多いです。
一足は移動用の歩きやすい靴で、
いつもニューバランスの靴擦れしにくいスニーカーを履いて行きます。
もう一足は部屋履き用のビーチサンダルです。
薄いので荷物でかさ張らないところが良いです。

こないだうちに来たオーストリア人たちの三人グループは
平均して一人三足以上持って来てました。
これはとある日の玄関の光景です。



コンバース、H&M、ナイキ、ディーゼル、キーンなどなど。
もう手前の入ってすぐの場所しか空いていないので、
家に上がるためには大股で跨がなければいけません。
これだけ靴があると邪魔です。
だけど邪魔は邪魔ですけど、
靴を一足しか持ってこないウーフーに比べると彼らは、
玄関がごちゃごちゃになるぐらいの迷惑しかかけません。

靴を一足しか持ってこないウーフー。
おい君たち、
とぼくはここで言っておきたいと思います。
一足しか持ってこないのは構わないけど、
人の靴を勝手に履くんじゃない!

ここ最近来たウーフーの中で靴を一足しか持ってこなかったのは三人います。
スペイン人のホセと、
ドイツ人のレアと、
香港系アメリカ人のインです。
今年の春から九月までで十一人うちに来ているので、
約三割が靴を一足しか持ってこないという確率になっています。

スペイン人のホセ。
彼はきれいな白いスニーカーを履いてうちにやって来ました。
底が薄くて先が尖り目のイタリアっぽいスニーカーです。
彼は畑の作業靴が無いために借りたいというので、
僕はメーレルの防水スニーカーを貸してやりました。
平日は僕のスニーカーをドロドロにして畑仕事に精を出し、
休日彼は自分のきれいな白いスニーカーを履いて
名古屋へナンパに出かけていました。
全然構いません。
いいことです。
プライベートを楽しめればこそ仕事も頑張れるというものですから。
それに、ドロドロになって玄関に脱ぎ捨ててあるメーレルを見るたびに、
「ここまで使い込まれたら靴も本望かな」とも思いました。
しかしホセ、
人の靴を履いてスペインに帰るってどういうこと!?
ラテン系はお気楽な性格だというけど、
お気楽にもほどがあるぞホセ!

香港系アメリカ人のインは借りパクほどのことはしていません。
彼はナイキのマジックテープが付いたバッシュ一足で来ました。
身長の低い彼は遠くから見ても近くから見ても中学生ぐらいにしか見えません。
足のサイズも小さく、たぶん25センチぐらいでしょうか。
彼のえらいところは一足しかない靴を汚れたらマメに洗うところです。
しかしスニーカーというものは洗えば日向で干しても
約二日間はかかる代物です。
その間どうするかというと、
僕のゴム長靴とサンダルを履いていました。
僕がそれに気付くのはいつも仕事中の時です。
インがそばを通ったときに違和感があって足下を見ると
それが僕の靴でした。
「それおれの靴じゃん!」と言いかけましたけど、
ピザも焼いてるし、靴ぐらいでグダグダ言うのもなと思い黙りました。
それに、
小さな彼がゴム長靴を履くとまるで釣りに行くみたいに膝上サイズになり、
ぶかぶかのサンダルは脱げないように足を引きずって歩くことになっていたので、
むしろ気持ち的には「見守ってあげたい」そんなものが湧いてきました。

ドイツ人のレア。
ドイツ人は一貫した性格を持っていると言うけど、
彼女はほんとにその通り一貫した行動を取りました。
頑なに、徹底的に、鉄の意思で自分の靴を履き替えることもなく、
履き潰しました。
それだけ頑固な人種にはやっぱりベンツみたいに丈夫な車じゃなきゃ“もたない”か、
というのが感想です。
だけど当然スニーカーはベンツみたいに丈夫じゃありません。
彼女のスニーカーは黒色で、一部に合皮を使ったものでした。
底は薄くて軽そうなスニーカーです。
レアがオーシャンに来た当時靴は健康そのものでした。
合皮には艶があり、黒い布地の部分には張りがありました。
一ヶ月ほど経つと艶は失われて、布地はたるんできました。

ある日僕は玄関先に黒いゴミクズを見つけました。
ウーフーたちは毎日畑から泥も持ち帰ってくるので、
掃き掃除は定期的にしなければいけません。
その黒いゴミクズ、最初は気にも止めませんでした。
だけどその日を境に黒いゴミクズを玄関周辺で頻繁に見るようになったのです。

玄関扉を開いて靴を脱ごうとすると、
足下にその黒いゴミクズが落ちています。
親指大ほどの大きさで「、」のような形で土間に落ちています。
僕は何か考え事をしながら帰宅して
その黒いコンマのような形のゴミクズを見つけると、
ほんとに考え事にもコンマを打たれたような効果がありました。
「ビールを飲んでからシャワーを浴びよう」が、
「ビールを飲んでから、シャワーを浴びよう」に変わるのです。
一瞬、間を、空けられるのです。
「何だこのゴミ?」
一瞬の効果なので、僕はすぐにいつも通りの自分のルーティーンに立ち戻ります。
ビールを飲んでシャワーを浴びる。

しばらく無視してたんですけど、
そんな一瞬の効果も何度か続くといい加減に正体を突き止めたくなります。
いつものように夜九時過ぎに帰宅すると、その日も黒いコンマを見つけました。
僕はしゃがんでその黒い物体を間近で見ることにしました。
黒いゴミクズには泥や砂が付着しています。
その横を見るとレアの黒いスニーカーがありました。
いや、もう黒とは言えません。
泥と砂が何層にもなって乾燥して、
イスラム圏の土壁の家みたいに黄土色がかっています。
その泥と砂の隙間にわずかに残った黒い合皮が見えます。
ひらひらと剥がれている部分、
千切れた部分、
下地が出ちゃってる部分があります。
その黒いコンマは、スニーカーから剥がれた黒い合皮でした。

僕は生まれてこのかた、
スニーカーのパーツがこれほど削り取られて履き潰されるのを
見たことがありませんでした。
無慈悲なるドイツ人、
黒いゴムの切れ端とその横に並んだスニーカーを交互に見てそう思いました。

それからまた一ヶ月ほど経ち
帰国数日前にそのスニーカーは寿命を迎えました。
僕から言わせるとよくぞそこまで耐えたスニーカーよ、です。
靴の先端は穴が開き、
ソールは剥がれて歩行すらままならない状態になりました。
僕の仕事中にレアが現れてこう言いました。
「ごめんなさいイッシン、サンダルちょっと貸してくれる?」
彼女は僕のビーチサンダルを履いていました。
僕は「あげるから履いていていいよ」と言いました。
レアは「そんなの悪いからいいわ、貸してくれるだけでいいの」と言いました。
彼女は遠慮するので僕は「まあどっちでもいいよ」と言いました。

「ちょっとの間借りるわね。ありがとう!」と。
どっちにしろ僕には分かってました、
その後彼女が僕のビーチサンダルを履いてドイツに帰ると。
もちろん彼女はそうしましたし。

2014年9月16日火曜日

ああジュリア、言葉少ななジュリア

しばらくウーフーについて書いていませんでしたけど、
ドイツ人のレアが三週間ほど前に出て行きました。
その後にイタリア人のジュリアと、
オーストリア人の三人グループが来ました。

ジュリアは元々チェンジョという小さな街にいて、
四ヶ月前に日本に来てから、
京都の大学で鳥の研究をしているそうです。
彼女はたった数ヶ月で日本語を覚えて、
なに不自由無くコミュニケーションが取れました。

だけど彼女は一週間だけの滞在で、
何で鳥を勉強しようと思ったのかとか、
どうしたらそんな短期間で日本語を使えるようになったのかとか、
聞こうと思ったことを聞く間もなく去っていってしまいました。

僕とウーフーたちの会話の時間は主に朝食の席と晩の遅い時間です。
真夏時の畑仕事は遅くとも七時頃には開始するので、
だいたい彼らは六時頃に起きはじめて
六時半には自転車で畑に向かって行きます。
うちから畑までは自転車で十分ほどです。

というものの、ほんとんどのウーフーたちに当てはまるのは、
彼らが朝食よりは睡眠を選ぶことです。
彼らは時間ギリギリに起き出してすぐに顔を洗い、ハミガキをして、
「イッテキマース」と急いで家を出て行きます。
僕は台所で朝食をとりながら「行ってらっしゃーい」と送り出します。

昼にウーフーたちは畑から店にまかないを食べにきます。
だけどお昼時、僕は仕事真っただ中なので
挨拶を交わすていどで、
彼らはまた午後の仕事に戻り夕方の五時頃には帰宅します。

僕が仕事を終えて帰宅するのは夜の十時前後で、
このときだいたい彼らは寝床につくところか、
あるいはもう消灯しているので、
一日まるで言葉を交わさないことが普通です。

稀に彼らが朝食に早く起きて来たりとか、
晩にコンビニで買ってきた酒を飲んでいたりするのに遭遇したときに、
僕らは台所でコミュニケーションをとることができます。

ジュリアに関してはそういう遭遇が一度も無く、
職場でも忙しくて挨拶できるていどでした。
彼女は背が僕よりも高く170センチ以上あり、
足は僕のヘソの辺にあるんじゃないかというぐらい足が長かったです。
髪の毛は灰色がかったヘーゼルナッツのような色で、
しっかりと相手を見つめて言葉を交わすところに意思の強さを感じます。
だけどどうやら彼女は奥手らしく、
家では静かに部屋に籠っていました。

ジュリアのいる間、
香港系アメリカ人のインも二ヶ月弱の滞在でまだうちにいました。
ただ彼は完全なオタクで、
部屋でPSヴィータのゲームをやっているか、
家にAmazonから毎日届く漫画の整理をしているかのどっちかです。
オクテとオタク二人の滞在時期、うちはとても静かでした。

先週からウィーン大学の日本語学部に通う三人の
オーストリア人グループがやってきました。
彼らは控えめでありながら社交的なほうで、
日本人っぽいところがあります。

しばらくブログを書いていなかったので、
自分の文章によそよそしさを感じます。
毎日書いていると考えもせずスラスラ書けるんですけど、
運動をせずに体が固くなるのと同じ状態かもしれません。

僕は先月から毎朝魚屋さんに通ってます。
今日は太刀魚とヒラメとヤリイカを買いました。