2016年2月10日水曜日

犬の開きのサステナブルさ

文豪札の製作は進んでいます。
今、8個できています。
最近また良いアイデアを思いついてしまいました。
これまで作ろうとしていたのは両面のサイン立てに、
 表:文豪の顔写真
 裏:代表的な小説からの引用文
という内容でしたが、
これに加えて表の顔写真+国旗も入れたいと思います!

ぼく以外のスタッフは文豪の顔の区別ができないだろう、
というのが最初から気がかりの種になってました。
しかし、渋い文豪の顔の横にカラフルな国旗が翻っていたら、
ピザを届けるときに遠目からでもテーブルに置かれた札を探しやすいです。
きっと探しやすくなるはずです。

番号札にしとけばこんな面倒なことをしなくてもいいのに、
内容を盛り込み過ぎな気がしてきました。
が、はじめたからには後戻りができません。

ところで具体的に、
ぼくがどういうふうに小説の引用文を入れようとしているのか、
ここに一つサンプルをあげてみたいと思います。
篠原勝之の『骨風』は文豪札には入れてませんけど、
もし入れるなら「花喰い」という短編の文章を入れたいです。

(日本人札には太宰治と村上春樹と最初に決めてしまったので、
もう定員になってしまいました。
ぼくの中でのルールは一国から二人選出にしています。
同じ国旗が店内に二つ以上出回ると混乱することが予想されますが、
どうしても一国一人というのが決めきれませんので)

以下引用文。

 終戦直後、裏山には腹を空かせた野犬が群れていて、時どき住宅街の子どもを襲ったので、鍬の柄や心張り棒を持ち寄って野犬狩りがはじまった。投げてやった小さなビスケットほどの乾パンに夢中になって喰らいつく野犬を、隠し持った棒切れで叩き殺していくのだ。戦争から戻って間もないオトコたちが、力任せに棒切れを振り回すのを見るだけでオレは震えていた。
 狩りがはじまると、オレはドングリの樹の二股に上がって、あちこちから響き渡ってくる甲高い吠え声を恐る恐る聞いていた。野犬に威かされたことが原因で今でも犬は苦手だけれど、あの日だけは追い回される野犬の味方だった。
 しかし夕方には叩き殺されて、倍ぐらい伸びきった野犬が何匹も地べたに積まれていた。血だらけの棍棒が転がったその場で解体され、毛皮と肉に分けられた。
 親父が山分けされた野犬の肉と毛皮を持ち帰ることもあった。味は全く憶えていないが食糧難だったオレたちのタンパク源になったのは確かだ。親父は黄色い脂肪を出刃で刮ぎ、毛の方を裏にして物置の板壁に釘で打ちつけて鞣した。赤や青の糸くずみたいな血管がところどころに貼りついたまま犬の開きは干涸びていった。
 ゴワゴワした毛皮は母親がチョッキに仕立て、厳しい寒さの地吹雪の日に着せられた。温かいけれど目立つそのチョッキを着るのは、絶望的な一日の始まりだった。

心張り棒というのが何だか分からないのに、
ぼくにはすごい武器だと思えて強烈なイメージが立ち上がって、
ウィキペディアで調べたらただのつっかえ棒のことだった。

「脂肪を出刃で刮ぎ(こそぎ)」や、
「毛の方を裏にして〜鞣した(なめした)」という動詞で、
バイオレンスな話しからサバイバルな話しに変わる。
最後にはチョッキになって着せられるというところまでくると、
これは最近よく聞く“サステナブル”なことじゃないかと思った。

サステナブルとは持続可能なという意味で使われます。
オーシャンでも人参や大根の皮はむやみにめくらず、
全部食べて香りも味も栄養素も丸ごと取ろうとしています。
食べれる物を捨てるのは地球のエネルギーの消費につながる、
なるべく無駄をなくそうというのがサステナブルな考えでしょうか。

こないだアメリカに行ったときに15ドルのツナ缶を見つけて買ってみました。
ふつうツナ缶といえば二百円そこそこなのに五倍以上高い。
家に帰ってよくよく缶のラベルを読んでみると、
そのオレゴン州にあるツナ会社は一本釣りされたマグロのみ使用、
と書いてあります。
つまり底引網などはまだ成長しきっていない魚貝を丸呑みしてしまうので、
サステナブルな漁ができないというわけです。
(ちなみにこのツナ缶はまだもったいなくて開けれてません)

もう一つ。
アメリカのどこの空港だったか忘れましたけど、
乗り継ぎの間にサンドイッチ屋さんに寄りました。
エッグ、ツナ、ターキー、パストラミなど5〜6ドルぐらいで色々サンドイッチが並んでいました。
が、その中に一つだけ12ドルのサンドイッチがありました。
一つだけ群を抜いて高い。
それはサーモンサンドイッチで、
なぜこれだけ高いんだと思って興味が湧いて買ってみました。
若い黒人の店員がチッと舌打ちしてサンドイッチを渡した。
このサーモンサンドは色も悪くて若干生臭かったです。
あとあと思ったら、ここの空港は海から遠くて海産物は輸送費がかかるし鮮度も落ちるということか?
だとしたらこのサーモンサンドは反サステナブルということになりそうです。
土地の利は活かされてないし、美味しくないし、高い。

サステナブルは循環することが大事なら、
この犬の開きはサーモンサンドに比べたらかなりサステナブルです。