2017年1月30日月曜日

昨年末に浜松にある〈ヒルマン〉というビストロの
シェフ佐藤さんをオーシャンにお招きしました。
料理のお話しではなくソマチットのお話しです。

人間の血液の中の赤血球や白血球よりも
さらに小さい生命体と言われるのがソマチットです。
ウィキペディアには
「捏造・エセ科学に分類される」と書いてあります。
ソマチットの研究はまだ科学的な証拠がないそうです。

科学的な裏付けはともかく、
自分の血液を顕微鏡でのぞく機会もあまり無いので、
ぼくもこの講習会に参加してみました。

佐藤さんは趣味でソマチットを観察してるそうです。
オーシャンスタッフ数名で〈ヒルマン〉にお邪魔した際
「私たちの血も見てほしいです!」
とお願いしたらこころよく応じてもらえました。

オーシャンではこのソマチット講習会と合わせて
餅つき大会も企画しており(変な組み合わせですけど)、
取引先の方や家族身内などが集まり、
結局30人ほどがこのソマチット観察をしました。

当日、佐藤さんは顕微鏡を持ってきました。
想像よりも大掛かりな設備で、
顕微鏡の横に大画面のディスプレイを設置すると、
オーシャンの店内が瞬く間に実験室に変わりました。

はじめに佐藤さんからソマチットの観察の仕方の話しがありました。
「これから比べてみると分かりますけど、
ぼくのソマチットは量が多くてものすごく元気です。
それから赤血球が小さいのが分かりますが、
これは繊細で女性的な性質をもっていることを現しています」と、
スキンヘッドで格闘家のような体型の佐藤さんは言いました。
さあはじめましょうとなって、一番乗りでぼくから見てもらうことになりました。

血液採取は免許を持たない他人が行うと違法となるため自分で行います。
助手の女性の方に説明を受けて、
マジックペンほどの太さの白い棒を渡されました。
先端を小指の腹に当ててボタンを押すとパチンと音がして
(ゴムで弾かれたような痛み)、
指から血が一滴出る。

その血を薄いアクリル板でサンドイッチにして、
それを顕微鏡でのぞく。
佐藤さんが「みんなに見せてもいいですか?」と聞く。
「いや、中には体重と同じ感覚で見られたくないという人もいるので」
ぜんぜんいいです、とぼく。

ぱっとディスプレイの一面に数珠つなぎの白いリングが映った。
そのリングがかすかに動いている。
その白いリングの周りに白い粒々がたくさんあってこれも動いている。
「その小さいのがソマチットです」と佐藤さん。

白いリングのほうが赤血球で、
たまに白いシミがもぞもぞと動いているのが白血球。

極細の繊維のようなものが固まっているのは砂糖で、
糖分が結晶化したものだという。
この糖の塊がほかの糖をどんどん吸着して大きくなると、
血液が流れなくなって血管が詰まるそうです。

「えー、牧さんでしたっけ?
牧さんの血は元気です、ソマチットもよく動いてますね。
赤血球が小さいですけど、
これは繊細で女性的なところがあるということです。
料理人はだいたい女性的なところがないとやれませんね。
それから牧さんは水分が足りてないというのと運動不足です。
あと免疫力が弱いですね。
ただ、エネルギッシュで馬力があるので
たいていはそれで乗り切ってしまいます」

周りでぼくの血液を見てる人たちが
アアー、とかウンウンとか言っている。
たった一滴の血でこんなに情報量があるのか、
たしかに運動もまるでしていないし、水よりも酒のほうが多いかもしれません。

そのあと遅れてぼくの妻が見てもらった。
「すごいソマチットですね。今回いちばん多いかもしれない」
ぼくの倍以上の数と倍のスピードで動いてる。
「赤血球も張りがあっていいです。
ただ気を付けないといけないのが、
すごいエネルギーの持ち主であるだけに、
これは良い方にも悪い方にも作用する。
悪い方にいけばダークフォースみたいなもので、
周りに攻撃を加えてしまいます」

それは事実です、とぼくは口を滑らせるところだった。
動画をアップしようと思ったらうまくできなかったので写真をあげます。



2017年1月21日土曜日

初日の出営業

しばらくブログを書かずにノートに日記を書いていました。
二カ月近く日記だけにしていましたけど、
人に見られることを意識せずに書いているとダラける、
ということが分かりました。

一昨年の十二月、
オーシャン全体で丸一月休みました。
「飲食店で一カ月も休んで大丈夫か?
経営は成り立つのか?」
なんて、一従業員としてぼくは心配になりました。

だけど経済面に関しては、
むしろ十二月の暇な月にスタッフを配置しているほうが
よほど赤字になるという計算でした。
店を開けるとアルバイトも五〜七人は必要です。

なので、ここは冬のヨーロッパの飲食店を見習って、
冬は一カ月解散してみよう、
と実験的な試みをしてみました。

オーシャンのスタッフの九割が時給なので、
一カ月給料無しということになります。
その年の夏頃にはみんなで話し合って決めていたので、
「そんなのは困る!」という問題もありませんでした。
冬は長い休みを取るかわりに夏はしっかり働こうと決めて、
実際にそうなりました。

ぼくは社員雇用なので給料は夏も冬もだいたい同じです。
(夏はちょっと多く、冬はちょっと少ない)
二週間は特別休暇をもらい、二週間は有給を使いました。

結果、丸一月休んでどうかというと、
良い面もあれば悪い面もありました。
良い面は、思いっきり羽を伸ばせること。
悪い面は、休み前には食材をすべてリセットして
休み明けにまたすべて用意し直さないといけないこと。
それから、畑を一カ月休むとその間にピークを迎える野菜が
土から抜かれずにそのまま土に還っていってしまうこと。
無駄な労力がたくさんあったな、
野菜もこれではいたたまれないし、という気持ちになりました。

今回はこの長期休業はやめて、
各個人で長い休みを取りたい人が交代でとるようにしました。
二週間ほど休みをとって海外に行く人もいれば、
三週間ほど徳島県のカフェに丁稚をしにいった人もいて、
ぼくのように同じことを繰り返してる人もいます。

ピッツェリアでは一昨年も行なった“初日の出営業”を
また今年もやりました。
元旦は朝の三時から窯に火を起こして温めて、
火の付いた薪を外に設置したドラム缶に放り込みました。
外に暖をとるために設置したドラム缶は
前日に中国人がやってるスクラップ場から1500円で買ってきたもので、
内側を触ると手が廃油まみれの真っ黒になる代物です。
ここに燃える薪を放り込むと恐ろしい勢いで燃え始めて、
すぐにぼくの背丈の二倍を超える火柱がゴーーーという音を立てるので、
ぼくは「これは火事になるんじゃないか」と怯みました。
数分で(たぶん中の廃油が燃え尽きて)炎も安定してほっとしました。
そのあと六時から店をオープンしました。

思った以上にお客さんで賑わい、
店で用意してた振る舞い用の甘酒はすぐになくなってしまいました。
日本酒も一升瓶がなくなりました。

燃え盛るドラム缶を用意したものの、
とくに暖房必要ないんじゃないかというぐらい風もない穏やかさで、
雲のない晴空です。
朝陽が昇るときに海面が真っピンクに染まった景色は、
間違いなく今まで見た初日の出の中でも最高のものでした。
(人生で3回目ぐらいの初日の出ですけど)

満杯だった店もこのときはからっぽになりました。
ウッドデッキからこの朝陽が昇る瞬間を、
息を飲むような静けさでみんなが見入っていた光景に、
ぼくはマルゲリータを焼きながら「お店開けてよかったー」
と良い新年を迎えれた気がしました。