2015年2月11日水曜日

竹とワカメ

先日店に漁師の木下さんがワカメを持ってきてくれました。
バケツからワカメがドレッドヘアのようにはみ出るほどの量です。
夫婦で、共に六十代中盤ぐらいだと思います。
奥さんの方は旦那より背が高くて、これが本物の三河のおばあさんかと、
三河育ちのぼくは三河弁にはそれなりの理解があると思ってましたが、
自分は自惚れていました。
幡豆のおばあさんと言葉を交わすと分かりますが、
方言というものは確実に廃れているんですね。

そして、おばあさんはよく喋る。
よく喋るを通り越して、
同じ話を三週ぐらいして、その間ぼくが口を挟む隙間もありません。
できればレコーダーで録音してここで聞かせたい三河弁です。
文化人類学の研究資料として買ってもらえる価値があると思います。

対して、猫背で背の低いおじいさんは極めて物静かに、
おばあさんの後方でうしろに手を組んでいます。
おばあさんが物凄い勢いでワカメについて海草のごとくペラペラ喋るのを、
たまにフッとかヘッとか言いながら軽く笑っている。
その笑いは呆れる種類のものではなく
「ワカメのことならおらぁもっと詳しくおせーてやれる」
という雰囲気を醸し出している。
港町の漁師夫妻、恐るべしです。

ワカメについてひとしきり喋り終わると夫婦は帰りました。
帰った、と思いました。
そしたら15分後に戻ってきました。
今度はバケツ一杯のアサリを持って。
「貝がちーちゃいけんど身はよー詰まっとるよ。
あたしがれ船で、見えるでしょあっちの白い灯台が、あーっちのほうまで行くの。
ほんでもまんだ小ーさいわ!
ほいだがあたしゃ掘るのが好きだで行くの」

——こんなにもらっていいんですか?

ぼくはお礼にと思ってビールを渡そうとすると、
「いい、いい、いい、
あたしがれ一滴も飲まんだわ!
この人もね、うちの息子もね、家族みーんな一滴も飲まん!
これもね(アサリ)食べるより、掘るが好き、
また取れたら持ってきたげる!」
アサリを食べるより掘るが好き、
こういう人は多いんですか?
そういえばおばさんたちってよくアサリを配ってたりします。

ともかく、そういうわけでワカメとアサリを頂きました。
ところで、ワカメに旬があるとみなさんは知っていますか?
ぼくは知りませんでした。
ワカメなんて一年中海の中でフワフワ漂ってると思ってました。
だけどあるんです、旬が。
三河湾ではこの時期から春までの間が旬だそうです。

木下さんたちが1月の下旬頃にピザを買いに来てくれた時も
ワカメを取りに行った帰りでした。
しかしそのときは手ぶらでした。
まだ小さくて取れなかったそうです。
ところでところで、みなさんはワカメをどうやって取るか知っていますか?
ぼくは知らなかったです、
まさか竹を使うのだとは。

ワカメを取りに行くというのに、
まず山に竹を切りに行くと言うのです。
その竹の木を使ってワカメを取ると言うのです。
いったいその竹をどうやって使うのだろう……。

海中に竹を突っ込んで、
竹の枝にワカメのヒラヒラを絡ませるのか?
もうちょっと木下さんに突っ込んだ質問がしたいです。
だけどぼくが口を出す隙間がないぐらいマシンガントークをして、
終わったら終わったでさっさと帰っていってしまうので
なかなかチャンスがないのです。

また民俗学的発見があったら報告したいと思います。

PS
ぼくは幼い頃髪の毛が茶色で、
それが嫌で黒い髪になりたいと願っていましたところ、
祖母に「ワカメを食べると髪の毛が黒くなる」と言われ、
ワカメを大量に食べました。
おかげで今髪の毛はすっかり黒いです。

0 件のコメント:

コメントを投稿