2016年8月1日月曜日

鳩の占拠

うちの実家は築80年だそうで、
宮大工が釘を一本も使わずに作ったしっかりした家だけど
けっこうガタがきている。

今年の冬のことだった。
実家の玄関の外に立っていたら
鳩がやたらと上空を飛んでいることに気付いた。
上空といっても空までいかない。
実家の二階の屋根に何羽か並んでいたり、
そしてその鳩の出処はうちの破れた軒下からだった。

古い板張りの軒下が割れて鳩が入れるほどの隙間で、
そこから次々に、
マジックショーかと思うぐらい五羽も六羽も飛び出していた。
飛び出していく鳩もいれば帰ってくる鳩もいて、
我が物顔でするっと入っていきちょっとだけ顔を出して、
道路沿いから見上げるぼくのことを怪しい人かのように見る。

よくよく足元を見ると、
白や黄色が混じった糞で道が汚れている。
思わずぼくは後ずさった、今にも頭の上に落とされそうだ。
「ここはいつから鳩に乗っ取られたのか?」
ぼくはすぐ家の中にいる父親にこの事態を伝えに言った。

「昼寝してるとよく屋根裏からクルルル、クルルルなんて音がするわ」
と鳩がいることは知っていた。
早めに対策を取らなきゃ家がひどいことになるんじゃないかとぼくは言った。
「おれが鳩を追い出すか、鳩におれが追い出されるか、だな」
とゆっくり構えている。

考えが実行に移されるまでに時間のかかる父親であるけれど、
今回は想像以上に対応が早かった。
(それでも春まではかかったけど)
暖かくなって父親がコタツから出れるようになった頃、
父親は鳩を追い出す作戦に乗りだした。
知人の協力のもと天井を剥がして、
鳩を全部追い出してから、破れた軒天を修復するという計画だ。

鳩がどれだけの期間うちの実家の屋根裏を占拠していたのか、
ぼくは正確には知らないけど、
その天井を剥がそうと手をかけた途端メリメリ音がしたと思ったら、
天井の一部が丸ごとどっさり落下した。
粉塵でモクモクしたものを見るとそれは100キロ近くもある鳩の糞だった。
それは粉塵ではなく、糞塵だった。

これは普段父親が寝起きしている部屋の天井のことで、
つまり仰向けになって見える天井越しには100キロの鳩糞があり、
それが日増しに増えていっているということで、
おそらくもう少しのところで父親は寝ているところを
重さで耐えきれなくなり天井を突き破った鳩糞に埋もれて死ぬところだった。

ともかくその鳩糞は軽トラでゴミセンターに二往復分の量があった。
そして屋根裏をのぞくとそこにはまだ飛べない鳩の子供がいた。
一ヶ月後父親に会うと
「今、鳩の子供が飛ぶ練習をしてるから、たぶんもうすぐ出て行くわ。
そうしたら軒天を修理すればいい」
と言う。
これを人に話すとなんだか優しい気持ちになるわーと言っていたけど、
ぼくはここまで、生死ギリギリのところまで人間が鳩に追い詰められた
話しを聞いたことがない。


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