2012年5月29日火曜日

曲者顔(下)

策略を成功させる男は悪者に見られる、
と昨日書きました。

ぼくの知合いが昔いた職場の社長の話しです。
仮に「居酒屋の社長」ということにしときます。
今から30年も前に居酒屋をはじめて、
バブル時代にはそれなりに勢いがあり、
西三河に店が5、6店舗あった。

社長の格好はけっこう地味だった。
周りに金をまき散らす訳ではなかったけど、
気付けば車が新車のベントレーに変わっていたり、
朝食はいつもホテルのモーニングだったらしい。

羽振りが良ければ「儲かってるんだな」と単純に分かるわけだが、
気付かないところで金を使っているところが発覚すると
妄想が先走りする。
「なんだなんだ、こっちには一銭も回ってこないじゃないか」
「一体どんな汚いやり口をしてるんだ」
なんて言い出すのがいる。
そしてとうとう、
「あいつは腹黒いぞ」
みたいなただの悪口になってくる。

その腹黒さに拍車をかけたのが、社長の不倫だった。
しかも相手は自分のところの社員の店長。
その不倫のことは暗黙の了解で従業員はみんな知っていた。

その不倫があからさまに表に見えるのは、
週一の店長会議のときだった。
売上げが悪かったりする店舗の店長はヤリ玉にあげられて、
とことん絞られた。
しかし、社長の不倫相手がいる店だけはどれだけ売上げが悪かろうが、
指摘されることはなかった。

ある日の店長会議のときだった。
会議がはじまってすぐ社長の不倫相手が切り出した。
「今日はみなさんに報告があります。
私、結婚することになりました」
会議場は一瞬シーンとした空気が流れた。
(一体誰と!?まさか社長と!?ええ!?)
すぐに謎は解けた。
沈黙していた社長が立ち上がったのだ。
「し、清水くん、君、結婚しないって言ったじゃないか!」
社長してやられたり。
店長会議は解散。
二人の深夜にまでおよぶミーティングになった。

その後、店長は無事寿退社した。
そして時代はバブルも弾けて、
社長のベントレーは国産車に変わった。
こうなるともう、悪者顔という感じはしなくなる。
むしろイカツイ社長の顔も、
人間らしい曲者顔に見えてきた。

0 件のコメント:

コメントを投稿