2012年7月14日土曜日

日本人が書くローマ人情物語

辻邦生の『背教者ユリアヌス』を読みました。
自分では買わないようなタイトルだったんですけど、
オススメされて読みはじめました。
日本にこんなローマ大作があったなんて知りませんでした
おもしろかったです。

昔のローマでまったく別世界のことを書いてるんですけど、
不思議と世界観に遠さがない。
世界観と言ったらいいのか、人情と言ったらいいのか。
昔のローマ人を思い浮かべることは想像でしか無理ですけど、
それでもローマ人同士のやり取りに共感できる部分がたくさんあった。

その人物像を、日本人作家のフィルターを通ってきた人情であり、
あくまでフィクションのローマ人と言ってしまえばそれまでですけど、
それ以上に時代と空間を超えた物語として読めるので、
これはやっぱりすごいフィクションだって思えます。

たとえば日本の歴史物大作といったら『坂の上の雲』があります。
この本のクライマックスのロシア艦隊との戦いを読めば、
これはもう傑作だと思い知らされる感じがあります。
でも人情で言えば、『坂の上の雲』はそこまで表面には現れてこない。
日本人の寡黙に仕事をする心情を表現したのかもしれないし、
歴史的事実がたくさんあるから、勝手に心の問題を差し込んじゃうと、
語弊が出るっていう心配もあったのでしょう。


その点「背教者ユリアヌス』は人情物語です。
誰が裏切ったから殺す。
それは濡れ衣だったから、許せず復讐に走る。
と思ったけど、復讐はせずに我慢する。
こういうところの人情が細かく伝わってきて、
ドラマチックになっていくんです。
ハイブリッドローマ大作です。

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