2013年10月31日木曜日

セローの旅行記

ポール・セローの『ゴースト・トレインは東の星へ』
をたまに読んで、たまに放っておいて、
ちょっとずつ読んで結局読み終わるのに半年かかりました。
この分厚い旅行記はロンドンから出発して、
中東とアジアを通り抜けて東京を折り返し点に、
シベリア鉄道で帰る長い旅の本です。

セローという人は三〇年前にも同じ道筋で旅をした旅行記の
『鉄道大バザール』という本がありますけど、
そっちの最初の方は読んでないです。

30年経って同じ道を辿ったら自分はどんな視点を持つのか。
そんな興味をセローは抱いて旅に出る。
前回の旅と同じものを見るのか、別のものを発見するのか。

合わせて読んだらもっと楽しみがあったんでしょうけど、
この一冊だけでも六ヶ月間ペラペラ読みを続けさせる魅力がある。
たぶんそれは誰にでも、
時間が経ってから同じ場所に行くという経験が
人にとって貴重な出来事になっているからだと、
この本を読んでいて思えました。

行ったことのない場所に行くことはもちろん新鮮で、
旅行に行くとなったらやっぱり行ったことのない場所を選びます。
でも、たまに同じ場所に行くことがある。
(人に無理やり連れて行かれたり、自分から進んで行ったり)

そういうときに自分が
「ああ、また同じ場所に来ちゃったな」
と目新しさを感じなかったら面白みも何もないです。
でも同じ場所に行って新鮮なことを感じれたら、
(場所が変わったということもあるかもしれませんけど)
それは自分が変化したり成長したりというふうに考えれる。

「自分の何が変わってこういうふうに思えるんだろう?」
というきっかけを旅が与えてくれる。
セローはそういう視点の変化に喜びを持って旅をしていたと思う。
こういう文章を読むとそう思える。

“はるばる旅をしてきて現代都市に辿り着くのが非現実的な体験なら、
その街がほとんど変わってないのを目にするのは、
それよりはるかに非現実的だ”

セローの文章の面白さは、
「この文章は本音だ」と思えるところにあります。
ウソも飾りも方便も無くて、
正直な気持ちが伝わってくるところが良い。

“最高の旅とは単なる列車の旅ではなく、
いくつもの列車の旅の集積ですらない。
もっと長くて、もっと複雑な何かである。
四次元の体験、止まったり動き出したり、長々と退屈な部分があったり、
病気になったり回復したり、だらだら急いだり待たされたりして、
たまにご褒美として突然幸福が訪れる——そういうものなのだ”

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