2012年4月4日水曜日

ヘビ屋(上)

・伊丹十三の『日本世間噺体系』を読みました。
聞き書きスタイルの作品が色々入ってます。
お店で出すオムレツの奥の深さについて、
塩田の重労働について、
ミュンヘン博物館の理念「本物・触れること・動くこと」について、
それぞれが現場にいる人の話しで書かれている。
どれも体験していなかったら出てこないような話しです。

マンネリ生活の中にいると好奇心はしぼんでしまいますから、
たまに知らない世界の話しを聞くことは、
好奇心が温めなおされます。
自分も何かを知りたいという意欲が湧いてきます。

・ぼくが知っている中で珍しいと思った仕事は、
実家から4軒隣にあるヘビ屋です。
道に面したガラス戸から店内をのぞくと、
生きたマムシが何匹もガラス瓶に入ってます。

猿の頭とか、
まっ白なカエルとか、
鹿の角とか、
そういう類のものが棚に並んでいます。、
小学生のころのぼくは店内に入る勇気がなかったので、
店主のいないのを見計らって、
ガラス戸にへばりついていました。

でも店主がちらりとでも見えると、
慌てて家に逃げ帰りました。
もし中に招かれたら生きて帰れるとは思えませんでした。

お店はぼくが生まれるよりも何十年も前から営業をしていて、
今の店主はぼくの親父と同世代ですけど、
そのまた親父、つまり祖父の代からはじまったようです。
ぼくの親父が中学生のころ、
ヘビ屋の煙突から黒い煙が昇るのは日常的なことだったみたいです。
お店の看板メニューはマムシの黒焼きで、
それを窯で焼くときに出た煙でした。

当時はお店にヘビをまとめて売りに行く、
ヘビハンターがいたみたいです。
こんなお店の近くで育って、
好奇心が刺激されないわけがありません。
20代も後半になったぼくは、
ついにお店に入りました。