『美味しんぼ(11)』の「第五話/トンカツ幕情」に、
貧乏学生が日雇いでもらった給料を奪われそうになり、
不良にポコポコ殴られているところを
トンカツ屋の主人に助けてもらう話があります。
主人は青タンだらけになった学生を元気づけてあげようと、
トンカツをご馳走します。
そのとき主人がこう言いました。
「いいかい学生さん、
トンカツをな、
トンカツをいつでも食えるくらいになりなよ。
それが、人間えら過ぎもしない
貧乏過ぎもしない、
ちょうどいいくらいってとこなんだ」
三〇年後、その学生はがんばった結果、
アメリカで金持ちになって日本に帰り、
もう一度そのトンカツを食べようとするが
その店はもう閉まっていた。
それでも何とかその主人を探し当てて、
もう一度トンカツを作ってもらい、
涙ながらに食べることができました。
そして僕もこの話を涙ながらに読んでいたら、
トンカツが食べたくなりました。
トンカツといったら碧南の[吉峰]です。
即駆け込ロースで〈ロースカツ定食(みそ)〉を注文する。
車で店に向かう途中にヒレにするかロースにするか
色んな葛藤を経た決定です。
[吉峰]のカツのみそは甘めの豆みそです。
揚げたてのカツにかけられた豆みそが
シューと音を立ててやってくる。
もし気を配らなければこの一瞬を失うことになる。
もし上司が大事な話をしてても、
いただきますを静かに言って、
そっと食べはじめたいところです。
頷きながら食べはじめましょう。
この一口目。シャクシャクいう衣の歯触り。
ロースの脂身。ロース。ロース。ローーーース!!
このトンカツの一口目のタイミングを
みすみす見逃してロストしてはいけない。
絶対にドントロストロース。
[吉峰]のトンカツは周りに充実感がある。
お楽しみのみそ汁がある。
旬の食材が入っている。
アサリなんかだとかなりのラッキーデイです。
ワタリガニの足がお椀の外に飛び出ている嬉しい日もあった。
逆に何も入ってないときもある。
ワカメだけのときも。
でもそれが何ですか。
毎日同じ具材を入れて季節観を失ったみそ汁と比べたら、
楽しみの数がちがいます。
そして細切りの甘いキャベツ。
特製の玉ねぎドレッシングをかける。
レモンを搾る。
この山盛りのキャベツがうまいです。
もう、これだけでご飯二杯は楽勝だっていうのに、
漬け物三種盛りが付いてきてしまう。
梅干しとナスの芥子漬け、それと季節で変わるもう一種。
昨日は瓜の粕漬けでした。
僕はこのナスの芥子漬けだけでまたご飯が一杯いけてしまう。
そういう有能な部下に囲まれた頂点にトンカツが君臨している。
このナスの芥子漬けが鼻をツンと抜けながら、
涙ぐんだところですぐにロースを食べる。
衣に染み込んだみそが刺激をやわらげる。
でも、このみその甘さと芥子の親和力は、
止まった涙も再びこぼれるハグになる。
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